エラーの原因を調べる。知らない技術について調査する。コードのたたき台を書く。ドキュメントをまとめる。生成AIを仕事で使うようになって、こうした作業にかかる時間が短くなったと感じているエンジニアは多いのではないでしょうか。
では、これまで自分が時間をかけていた仕事をAIが速くできるようになったとき、エンジニアの仕事はその分だけ減っていくのでしょうか。それとも、 仕事の重心が別のところへ移っていく のでしょうか。
スーパーソフトウエアでは、現在ITエンジニアとして働く27〜59歳の男女1,265人を対象に、業務での生成AI利用と仕事の変化について調査しました。
結果を見ると、生成AIによる時間短縮が広く感じられている一方で、AIを使う頻度によって、「仕事の進め方」や「AIが出したものを確認すること」への認識にも大きな違いが見られました。
この記事では、調査結果そのものを紹介するだけでなく、そこから AI時代のエンジニアの仕事とキャリアをどう考えればよいのか を掘り下げます。
生成AIで「作る・調べる」時間は、すでに短くなっている
今回の調査では、ITエンジニア1,265人のうち75.9%が、業務で生成AIを現在利用していました。さらに現在利用している960人のうち97.5%、936人が、少なくとも一つの業務について「時間が減った」と回答しています。特に多かったのは、「エラー原因の調査」44.1%、「技術調査」36.4%、「コード作成」36.2%、「ドキュメント作成」33.3%でした。

ここでいう97.5%は、「生産性が97.5%上がった」という意味ではありません。何らかの業務で時間が減ったと回答した人の割合です。それでも、エンジニアがこれまで時間を使ってきた作業の一部を、生成AIが効率化していることは読み取れます。
例えばエラー調査なら、ログやスタックトレースを見ながら原因候補を洗い出す。技術調査なら、ドキュメントを探し、サンプルコードを読み、実装方法を比較する。コード作成なら、定型的な処理やテストコードを書く。こうした「調べる」「形にする」までの時間を短縮できれば、開発の進め方そのものが変わっても不思議ではありません。
実際、「仕事の進め方が変わった」と回答した割合は、生成AIをほぼ毎日利用する人で94.0%、週に数回利用する人で77.7%、月に数回利用する人では35.3%でした。少なくとも利用頻度の高いエンジニアにとって、生成AIは検索を便利にする道具の域を超え、仕事のプロセスそのものに関わる存在になっていると考えられます。
「作れる」ことと、「使ってよい」と判断できることは違う
一方で、今回の結果にはもう一つ特徴があります。「AIの出力が正しいか確認すること」の重要性が増したと回答した割合は、生成AIをほぼ毎日利用する人で62.6%、週に数回では35.8%、月に数回では19.9%でした。

この結果だけから、「AIを使うほど確認作業が増える」という因果関係までは言えません。ただ、利用頻度の高い人ほど、 AIが何かを生成することとは別に、その出力を確認することを強く意識している という関連は見えています。
これは、実際のシステム開発を考えると理解しやすい話です。生成AIがAPIのコードを書けたとしても、そのコードを本番環境に入れてよいかどうかは別の問題です。認証・認可は正しいか。例外処理は十分か。トランザクション境界は適切か。既存システムとの整合性は取れているか。性能やセキュリティ上の問題はないか。保守する人が理解できるコードになっているか。
仕様書についても同じです。文章として整った資料をAIが生成できても、業務要件を正しく反映しているか、例外ケースを落としていないか、既存運用と矛盾していないかは、人が確認しなければ分かりません。
成果物を作る速度と、その成果物について判断する能力は、別のものです。
生成AIによって前者が速くなるほど、後者の存在が見えやすくなっている可能性があります。
AI時代に、人が責任を持つ仕事はどこにあるのか
今回の調査では、「最終的に人が責任を持つべき仕事がある」と回答した割合にも特徴的な結果が出ました。ほぼ毎日生成AIを利用する人では96.9%、週に数回では96.9%、月に数回では96.2%でした。現在生成AIを利用している層では、利用頻度にかかわらず約96〜97%が、人が最終責任を持つ仕事があると回答しています。

では、具体的に何について人が責任を持つべきだと考えられているのでしょうか。最も多かったのは「AIが作ったコードや資料の正しさを確認すること」の39.9%。続いて「品質や安全性を判断すること」30.7%、「設計方針を決めること」25.2%、「顧客や利用者に内容を説明すること」24.0%でした。
ここに並んでいる仕事には共通点があります。
コードを書く、検索する、文章を生成するといった「作業」ではなく、
確認する。判断する。決める。説明する。
という仕事です。
AIによって実装が不要になる、という話ではありません。むしろ、AIが生成したコードを評価するためにも、自分自身に技術力が必要です。そのうえでエンジニアの仕事が、単に「自分で成果物を作る」ことから、 成果物を評価し、選択し、その結果に責任を持つところまで広がっていく 。今回の調査結果からは、そうした仕事の変化が読み取れます。
AI時代に「技術力」はむしろ判断の土台になる
「AIがコードを書いてくれるなら、これからはコミュニケーション力やマネジメント力のほうが重要になる」そう単純に考えるのは、少し違うと私たちは考えています。AIの出力が正しいかどうかを判断するためには、そもそも何が正しいのかを理解していなければなりません。
例えばAIが二つのアーキテクチャ案を提示したとして、どちらを採用するかを決めるには、それぞれの技術的な特徴だけでなく、性能、可用性、開発期間、運用負荷、将来の変更可能性などを比較する必要があります。レビューでも、「AIが書いたコードだから確認する」のではありません。人が書いたコードをレビューするときと同じように、仕様、設計、実装、テストを理解したうえで、成果物として妥当かを判断します。
つまり、AI時代の問いは「AIスキルか、従来の技術力か」という二択にはなりません。技術を理解しているからAIを使いこなせるし、AIの間違いにも気づける。複数の選択肢の中から判断できるのも、同じ理由です。
生成AIによって技術力の価値がなくなるというより、 技術力の使い方が「自分で作る」だけではなく「判断する」方向にも広がっていく と考えるほうが、実際の開発現場の実感に近いはずです。
では、これからどんな仕事を経験しておくとよいのか
キャリアを考えるとき、「判断力を身につけよう」「コミュニケーション力を高めよう」と能力名だけを並べても、実際に何をすればよいのかは分かりません。そこでこの記事では、 どんな仕事を経験するか という形で考えてみます。
AIや他のエンジニアが作ったものをレビューする
自分で実装する仕事だけでなく、他者が作ったコード、設計書、テスト仕様などを確認する側を経験すると、「作れるか」ではなく「これでよいか」という視点が必要になります。生成AIの成果物を扱うときにも、その経験はそのまま生きます。
設計をするだけでなく、なぜその設計にしたか説明する
一つの方式を選ぶときには、多くの場合、他にも選択肢があります。なぜその方式なのか。性能を優先したのか、保守性なのか、開発期間なのか。何を捨て、何を取ったのか。設計理由やトレードオフを言葉にする経験は、「設計書を書く」より一段広い仕事です。
「テストが通った」ではなく、品質について判断する
すべてのテストが成功しても、それだけでシステムの品質を保証できるわけではありません。どこにリスクがあるか。どのケースを重点的に確認するか。どこまで確認すればリリースできると判断するか。品質を、誰かから与えられたチェック項目としてこなすだけで終わらせず、自分で考えてみる。その経験に価値があります。
仕様だけでなく、その背景を聞く
「この項目を追加してください」という要求に対して、そのまま実装するのと、「なぜ必要なのか」「誰がどう使うのか」まで理解してから設計するのとでは、担っている仕事が違います。顧客と直接話す機会がなくても、PLや上位SEに背景を確認することから始められます。
自分の判断を、他の人に説明する
設計レビュー、顧客との打ち合わせ、後輩への説明など、自分の判断について他者から質問される仕事を経験することも重要です。説明しようとすると、自分自身が曖昧に理解していた部分も見えてきます。AI時代に経験したいのは、必ずしも特別なAIプロジェクトだけではありません。 普段のシステム開発の中で、「自分が作る範囲」から「自分が判断する範囲」へ、少しずつ仕事を広げていくこと。 それ自体が、AIを使うことが当たり前になった環境でも生きる経験になると考えています。
「判断する範囲を広げる」ことは、PLになることと同じではない
ここで、「では全員がPLやPMを目指すべきなのか」と考える必要はありません。判断する範囲を広げることと、マネジメント職になることは別です。あるエンジニアは、顧客と要件を整理する方向へ進むかもしれません。別のエンジニアは、アーキテクチャや性能、セキュリティなどの高度な技術判断を担うかもしれません。チームを率いるPLもあれば、テックリードやアーキテクトとして技術的な意思決定を担うキャリアもあります。肩書きよりも、 自分が理解し、自分で判断し、結果に責任を持てる範囲が広がっているか で見るほうが、キャリアの実態に合っています。実装を続けること自体が問題なのではありません。
同じ「実装」という仕事でも、仕様どおり作るところまでなのか、設計を考えるのか、周囲をレビューするのか、技術選定まで担うのかによって、仕事の幅は大きく違います。エンジニアのキャリアを、「実装をやめて上流へ行く」という一本の階段として考える必要はないのです。
スーパーソフトウエアが考える「任されるエンジニア」
スーパーソフトウエアでは、エンジニアに必要なものを「技術力 × 人間力」と考えています。ここでいう人間力は、単に「コミュニケーションが得意」という意味ではありません。
- 仕事の背景や目的を理解する。
- 何を作るべきか整理する。
- 設計や品質について判断する。
- 顧客やチームに理由を説明する。
- 周囲と合意をつくる。
- そして、自分が担った仕事の結果に責任を持つ。
技術力を土台に、こうした仕事まで安心して任せてもらえるエンジニアを、私たちは 「任されるエンジニア」 と表現しています。これは、生成AIが登場してから新しく作った考え方ではありません。ただ、AIによってコード作成や調査などの時間が短くなり、「作ること」と「判断すること」が以前より分かれて見えるようになったことで、この考え方の意味もより明確になってきたと感じています。
スーパーソフトウエアのキャリア制度でも、実装・テスト・保守を土台に、設計・改善提案、顧客調整・技術判断、そしてリード・推進へと、信頼に応じて任される範囲を広げていく考え方を採っています。現在のキャリアページでも、役職とは別に「任される範囲の広がり」をキャリアとして位置づけています。
AIに仕事を奪われるかではなく、AIとどこまで仕事を担えるか
今回の調査では、生成AIを現在利用するエンジニアの多くが何らかの業務で時間減を感じていました。一方で、AI利用頻度の高い層では「AI出力の確認」の重要性が増したという回答も多く、人が最終責任を持つべき仕事として、確認、品質判断、設計方針、説明などが挙げられました。AIによって、エンジニアの仕事がこれからどこまで変わるのか、正確には予測できません。
ただ、自分のキャリアを考えるとき、「AIに自分の仕事が奪われるのか」だけを問い続けるよりも、
「AIを使って仕事を速くしながら、自分はどこまで理解し、判断し、責任を持てるようになるか」
と考えるほうが、次に経験すべき仕事は見つけやすくなります。生成AIで浮いた時間を、さらに多くの作業をこなすためだけに使うのか。それとも、設計を考え、成果物を確認し、品質を判断し、人に説明するところまで、自分の仕事を少し広げてみるのか。
それが、AI時代のエンジニアのキャリアを考えるうえでの一つの判断軸になります。
調査概要
「ITエンジニア1,265人調査」PR TIMESプレスリリース
- 調査名 :生成AI時代のITエンジニアに関する調査
- 調査対象 :現在ITエンジニアとして従事する27~59歳の男女
- 調査期間 :2026年8月17日~2026年8月19日
- 調査方法 :インターネット調査
- 調査ツール :Freeasy(運営:アイブリッジ株式会社)
- 回収数 :1,320件
- 有効回答数 :1,265件(回答品質の確認後)
※本調査は回答時点の利用状況と認識の関連を示すものであり、因果関係を示すものではありません。
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